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『'''幽霊滝の伝説'''』(ゆうれいだきのでんせつ、''The Legend of Yurei-Daki'')は、[[小泉八雲]]が著した[[怪談]]。『[[骨董 (小泉八雲)|骨董]]』に所載されている。[[鳥取県]][[日野郡]][[日野町 (鳥取県)|日野町]]黒坂に伝わる伝説を再話したものである。
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『'''幽霊滝の伝説'''』(ゆうれいだきのでんせつ、''The Legend of Yurei-Daki'')は、小泉八雲が著した怪談。『骨董』に所載されている。鳥取県日野郡日野町黒坂に伝わる伝説を再話したものである。
  
 
== 物語 ==
 
== 物語 ==
[[明治]]の頃、鳥取県の黒坂に小さな[[アサ#用途|]]取り場があった。ある冬の夜、女たちが[[囲炉裏]]を囲んで怪談話に興じていた。話に興が乗るに連れて[[肝試し]]をしようということになり、黒坂の村から離れた山の中にある幽霊滝に行って[[賽銭箱]]を持ってくることになった。ところが誰も尻込みして名乗り出ようとしない。そこで賽銭箱を持ってきた者に、今日取れた麻をみんな上げようということになった。するとお勝という気の強い女が肝試しに名乗り出た。
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明治の頃、鳥取県の黒坂に小さな''''''取り場があった。ある冬の夜、女たちが囲炉裏を囲んで怪談話に興じていた。話に興が乗るに連れて肝試しをしようということになり、'''黒坂'''の村から離れた山の中にある幽霊滝に行って賽銭箱を持ってくることになった。ところが誰も尻込みして名乗り出ようとしない。そこで賽銭箱を持ってきた者に、今日取れた麻をみんな上げようということになった。するとお勝という気の強い女が肝試しに名乗り出た。
  
 
お勝は[[赤ちゃん|赤児]]を[[袢纏|半纏]]にくるんでおぶり、幽霊滝へと向かった。[[冬]]の晴れて凍えるような夜空の下、山道を歩いて幽霊滝までやってくると、真っ暗な中にかすかに賽銭箱が見える。お勝が賽銭箱に手を伸ばすと「おい、お勝さん!」と咎めるような声が滝つぼの中から響いた。お勝は恐怖に立ちすくみながらも賽銭箱を取ると、またしても「おい、お勝さん!」と、もっと強くとがめるような声が響いた。
 
お勝は[[赤ちゃん|赤児]]を[[袢纏|半纏]]にくるんでおぶり、幽霊滝へと向かった。[[冬]]の晴れて凍えるような夜空の下、山道を歩いて幽霊滝までやってくると、真っ暗な中にかすかに賽銭箱が見える。お勝が賽銭箱に手を伸ばすと「おい、お勝さん!」と咎めるような声が滝つぼの中から響いた。お勝は恐怖に立ちすくみながらも賽銭箱を取ると、またしても「おい、お勝さん!」と、もっと強くとがめるような声が響いた。
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== 備考 ==
 
== 備考 ==
* 物語に登場する幽霊滝は、[[竜王滝]]または黒滝と呼ばれ実在する<ref>{{Cite web2 |df=ja |url=https://www.pref.tottori.lg.jp/27857.htm#C1_60364_BlogList_ctl02_TitleLabel |title=日野郡の滝 |website=とりネット/鳥取県公式サイト |publisher=鳥取県 |accessdate=2023-11-23}}</ref>。滝の近くには滝山神社もある。竜王滝には「2歳にならない赤児を連れて滝に来てはいけない」という[[タブー|禁忌]]が存在した。
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* 物語に登場する幽霊滝は、竜王滝または'''黒滝'''と呼ばれ実在する<ref>https://www.pref.tottori.lg.jp/27857.htm#C1_60364_BlogList_ctl02_TitleLabel, 日野郡の滝, とりネット/鳥取県公式サイト, 鳥取県, 2023-11-23</ref>。滝の近くには滝山神社もある。竜王滝には「2歳にならない赤児を連れて滝に来てはいけない」という禁忌が存在した。
* 竜王滝は白糸のように清楚な落差70mの滝である。滝の周辺は[[滝山公園 (鳥取県)|滝山公園]]となっており、[[ツツジ]]の名所である<ref>{{Cite web2 |df=ja |url=https://www.town.hino.tottori.jp/1273.htm |title=滝山公園 |website=【鳥取県】日野町 |publisher=鳥取県日野町 |accessdate=2023-11-23}}</ref>。
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* 竜王滝は白糸のように清楚な落差70mの滝である。滝の周辺は滝山公園となっており、ツツジの名所である<ref>https://www.town.hino.tottori.jp/1273.htm, 滝山公園, 【鳥取県】日野町, 鳥取県日野町, 2023-11-23</ref>。
 
* 物語のもととなった伝説は鳥取県内各地に伝わっており、かなり広く知れ渡った伝説だったようである。いずれも、気の強い女が肝試しで夜中に赤児を連れて滝不動に行き、賽銭箱か神社の札を持ち帰るが、帰ってから気がつくと赤児の首がもぎ取られているという筋立てである。赤児の首をもぎ取った物の怪は[[天狗]]とされている話が多い。滝の中から女を咎める声がするというのは、もとになった伝説にはない小泉八雲の創作だが、本作品ではこれが絶大な効果を上げている。
 
* 物語のもととなった伝説は鳥取県内各地に伝わっており、かなり広く知れ渡った伝説だったようである。いずれも、気の強い女が肝試しで夜中に赤児を連れて滝不動に行き、賽銭箱か神社の札を持ち帰るが、帰ってから気がつくと赤児の首がもぎ取られているという筋立てである。赤児の首をもぎ取った物の怪は[[天狗]]とされている話が多い。滝の中から女を咎める声がするというのは、もとになった伝説にはない小泉八雲の創作だが、本作品ではこれが絶大な効果を上げている。
  
 
== 滝山神社 ==
 
== 滝山神社 ==
あるいは瀧山神社(たきさんじんじゃ)。鳥取県日野郡日野町中菅にある神社。現在の主祭神:三穂津姫命、合祀:大日孁貴命、誉田別命、大山祇命、猿田彦命。境内神社:岡照神社:祭神:菅'''高岡'''久<ref>[https://omairi.club/spots/106471 瀧山神社]、omairi(最終閲覧日:24-12-28)</ref>。
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あるいは瀧山神社(たきさんじんじゃ)。鳥取県日野郡日野町中菅にある神社。現在の主祭神:'''三穂津姫命'''、合祀:大日孁貴命、誉田別命、大山祇命、猿田彦命。境内神社:岡照神社:祭神:菅'''高岡'''久<ref>[https://omairi.club/spots/106471 瀧山神社]、omairi(最終閲覧日:24-12-28)</ref>。
  
 
=== 由緒 ===
 
=== 由緒 ===
口伝によると承平7年(937)菅高左衛門尉岡臣の創建と伝える。菅高氏は菅郷内井ヶ城主であったが、霊夢に感じて城の南方8丁の幽邃の地に社殿を造営して龍神を祀ったと言われる。後年神佛習合、 神官僧侶共に奉仕し龍王権現また瀧山龍王権現と称した。寛永年中(1624~44)より神官のみ奉仕。藩主池田氏の臣福田丹波守が黒坂城主であった当時から祈願所と定められ、社殿の造営等同家によって営ま れた。明治元年に村内末社の御崎、八幡宮、山ノ神、道祖神を合併して 瀧山社と改称し、同6年に瀧山神社と改称した。明治7年、19年両度 の災害を被り社殿の改築が行なわれた。(同33年完成)中菅村の氏神 である<ref>[https://tottori-jinjacho.jp/pages/802/ 瀧山神社]、鳥取県神社庁(最終閲覧日:24-12-28)</ref>。
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口伝によると承平7年(937)菅高左衛門尉岡臣の創建と伝える。菅高氏は菅郷内井ヶ城主であったが、霊夢に感じて城の南方8丁の幽邃の地に社殿を造営して'''龍神'''を祀ったと言われる。後年神佛習合、 神官僧侶共に奉仕し龍王権現また瀧山龍王権現と称した。寛永年中(1624~44)より神官のみ奉仕。藩主池田氏の臣福田丹波守が黒坂城主であった当時から祈願所と定められ、社殿の造営等同家によって営ま れた。明治元年に村内末社の御崎、八幡宮、山ノ神、道祖神を合併して 瀧山社と改称し、同6年に瀧山神社と改称した。明治7年、19年両度 の災害を被り社殿の改築が行なわれた。(同33年完成)中菅村の氏神 である<ref>[https://tottori-jinjacho.jp/pages/802/ 瀧山神社]、鳥取県神社庁(最終閲覧日:24-12-28)</ref>。
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== 私的考察 ==
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黒坂、黒滝という地名より、'''一番当初期'''には、滝に住まう龍神とは[[多伎都比古命]]かそれに類する神で、「干ばつを起こす蛇神」と考えられていた、と推察する。[[石見天豊足柄姫命]]の伝承に登場する神である。2歳以下の幼児を人身御供に求めた神だったのだろう。そこから、「幼児が接近禁止」のタブーが生じていると考える<ref>何故、「黒」がつく神を干ばつ及び人身御供の神とするのか、といえば、中国神話で女神を食べてしまう天の犬の名が'''[[黒耳]]'''だからである。また一般的にイラン系の神話は「光と闇の戦い」のように言われるが、伝統的に「光」の側は「水神」で「白」、「闇」の側は「火神」で「黒」で現されることが多いからでもある。</ref>。
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ただし、現在の滝山神社の祭神の中には[[多伎都比古命]](干ばつを起こす男性形の蛇神)に相当する神が目立たないように思う。敢えて上げれば、誉田別命、大山祇命には「疫神」としての性質がないわけではないのだが、広くあちこちで祀られている神であって、特に「人身御供を求める神」として敢えて強調するような個性はない。滝の龍神が男神なのか女神なのかも判然としない。子供の命を奪った[[天狗]]と神々との関連もはっきりしない。ただ、最初に祀られていたのが、[[多伎都比古命]](干ばつを起こす男性形の蛇神)に相当する神であって、これを'''「人身御供を求める神」で祟りも起こすけれども、人の役にもたってくれる神'''と定義すれば、その性質は天狗に連続して受け継がれるように思う。
  
 
== 参考文献 ==
 
== 参考文献 ==
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== 外部リンク ==
 
== 外部リンク ==
* {{青空文庫|000258|59432|新字新仮名|幽霊滝の伝説}}([[田部隆次]] 訳)
 
 
* [https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/573088/yuureidaki.pdf 幽霊滝の伝説/とりネット/鳥取県公式サイト]
 
* [https://www.pref.tottori.lg.jp/secure/573088/yuureidaki.pdf 幽霊滝の伝説/とりネット/鳥取県公式サイト]
 
* [https://japanmystery.com/tottori/yuureidaki.html 幽霊滝 滝山神社 - 日本伝承大鑑]
 
* [https://japanmystery.com/tottori/yuureidaki.html 幽霊滝 滝山神社 - 日本伝承大鑑]
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2024年12月29日 (日) 01:29時点における最新版

幽霊滝の伝説』(ゆうれいだきのでんせつ、The Legend of Yurei-Daki)は、小泉八雲が著した怪談。『骨董』に所載されている。鳥取県日野郡日野町黒坂に伝わる伝説を再話したものである。

物語[編集]

明治の頃、鳥取県の黒坂に小さな取り場があった。ある冬の夜、女たちが囲炉裏を囲んで怪談話に興じていた。話に興が乗るに連れて肝試しをしようということになり、黒坂の村から離れた山の中にある幽霊滝に行って賽銭箱を持ってくることになった。ところが誰も尻込みして名乗り出ようとしない。そこで賽銭箱を持ってきた者に、今日取れた麻をみんな上げようということになった。するとお勝という気の強い女が肝試しに名乗り出た。

お勝は赤児半纏にくるんでおぶり、幽霊滝へと向かった。の晴れて凍えるような夜空の下、山道を歩いて幽霊滝までやってくると、真っ暗な中にかすかに賽銭箱が見える。お勝が賽銭箱に手を伸ばすと「おい、お勝さん!」と咎めるような声が滝つぼの中から響いた。お勝は恐怖に立ちすくみながらも賽銭箱を取ると、またしても「おい、お勝さん!」と、もっと強くとがめるような声が響いた。

お勝は後も見ずに走り去り、暗い道を駆けに駆けて麻取り場まで戻ると、賽銭箱を女たちに得意げに見せ、幽霊滝での奇怪な出来事を話した。お勝の勇気をたたえる声がわき上がった。ほっとしたお勝が赤児に乳をやろうと半纏を解くと、中から血にまみれた赤児の体が転がり出た。赤児の首はもぎ取られていた。

備考[編集]

  • 物語に登場する幽霊滝は、竜王滝または黒滝と呼ばれ実在する[1]。滝の近くには滝山神社もある。竜王滝には「2歳にならない赤児を連れて滝に来てはいけない」という禁忌が存在した。
  • 竜王滝は白糸のように清楚な落差70mの滝である。滝の周辺は滝山公園となっており、ツツジの名所である[2]
  • 物語のもととなった伝説は鳥取県内各地に伝わっており、かなり広く知れ渡った伝説だったようである。いずれも、気の強い女が肝試しで夜中に赤児を連れて滝不動に行き、賽銭箱か神社の札を持ち帰るが、帰ってから気がつくと赤児の首がもぎ取られているという筋立てである。赤児の首をもぎ取った物の怪は天狗とされている話が多い。滝の中から女を咎める声がするというのは、もとになった伝説にはない小泉八雲の創作だが、本作品ではこれが絶大な効果を上げている。

滝山神社[編集]

あるいは瀧山神社(たきさんじんじゃ)。鳥取県日野郡日野町中菅にある神社。現在の主祭神:三穂津姫命、合祀:大日孁貴命、誉田別命、大山祇命、猿田彦命。境内神社:岡照神社:祭神:菅高岡[3]

由緒[編集]

口伝によると承平7年(937)菅高左衛門尉岡臣の創建と伝える。菅高氏は菅郷内井ヶ城主であったが、霊夢に感じて城の南方8丁の幽邃の地に社殿を造営して龍神を祀ったと言われる。後年神佛習合、 神官僧侶共に奉仕し龍王権現また瀧山龍王権現と称した。寛永年中(1624~44)より神官のみ奉仕。藩主池田氏の臣福田丹波守が黒坂城主であった当時から祈願所と定められ、社殿の造営等同家によって営ま れた。明治元年に村内末社の御崎、八幡宮、山ノ神、道祖神を合併して 瀧山社と改称し、同6年に瀧山神社と改称した。明治7年、19年両度 の災害を被り社殿の改築が行なわれた。(同33年完成)中菅村の氏神 である[4]

私的考察[編集]

黒坂、黒滝という地名より、一番当初期には、滝に住まう龍神とは多伎都比古命かそれに類する神で、「干ばつを起こす蛇神」と考えられていた、と推察する。石見天豊足柄姫命の伝承に登場する神である。2歳以下の幼児を人身御供に求めた神だったのだろう。そこから、「幼児が接近禁止」のタブーが生じていると考える[5]

ただし、現在の滝山神社の祭神の中には多伎都比古命(干ばつを起こす男性形の蛇神)に相当する神が目立たないように思う。敢えて上げれば、誉田別命、大山祇命には「疫神」としての性質がないわけではないのだが、広くあちこちで祀られている神であって、特に「人身御供を求める神」として敢えて強調するような個性はない。滝の龍神が男神なのか女神なのかも判然としない。子供の命を奪った天狗と神々との関連もはっきりしない。ただ、最初に祀られていたのが、多伎都比古命(干ばつを起こす男性形の蛇神)に相当する神であって、これを「人身御供を求める神」で祟りも起こすけれども、人の役にもたってくれる神と定義すれば、その性質は天狗に連続して受け継がれるように思う。

参考文献[編集]

関連項目[編集]

  • 田中貢太郎 - 構造と結末が類似(軽率な行為によって禁忌を犯し、近親者に思いもかけない祟りが降りかかる)する怪談「竈の中の顔」の著者。

外部リンク[編集]

脚注[編集]

  1. https://www.pref.tottori.lg.jp/27857.htm#C1_60364_BlogList_ctl02_TitleLabel, 日野郡の滝, とりネット/鳥取県公式サイト, 鳥取県, 2023-11-23
  2. https://www.town.hino.tottori.jp/1273.htm, 滝山公園, 【鳥取県】日野町, 鳥取県日野町, 2023-11-23
  3. 瀧山神社、omairi(最終閲覧日:24-12-28)
  4. 瀧山神社、鳥取県神社庁(最終閲覧日:24-12-28)
  5. 何故、「黒」がつく神を干ばつ及び人身御供の神とするのか、といえば、中国神話で女神を食べてしまう天の犬の名が黒耳だからである。また一般的にイラン系の神話は「光と闇の戦い」のように言われるが、伝統的に「光」の側は「水神」で「白」、「闇」の側は「火神」で「黒」で現されることが多いからでもある。