「アペ・コペン」の版間の差分

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== ミャオ族伝承 ==
 
== ミャオ族伝承 ==
 
* [[バロン]]の項を参照のこと。
 
* [[バロン]]の項を参照のこと。
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アペ・コペンは「天を支えて大地に立つ怪力無双の男」とされている。はっきりと巨人とは描かれていないが、巨人である可能性は高いだろう。雷神とは兄弟分であったとされる。日月樹(太陽と月を宿らせる大木、世界樹の一種)を上って天に到達する。世界樹は雷神に枯らされてしまう。アペ・コペンが天で暴れると、地上には山や川ができた。アペ・コペンは天で雷神と戦い、あちこち雷公を追いかけ回すので、雷は天のあちこちで鳴るという。
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ミャオ族は鶏身の雷神を信奉しており、雷神を母方の叔父とも考えているとのことだ。また、雷神は下凡するときは雄鶏の姿になるとのことだ<ref>中国の伝承曼荼羅、百田弥栄子、三弥井民俗選書、1999、p96-98</ref>。
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=== 二つのタブー ===
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物語には大きく2つの「禁忌」が含まれる。
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==== 同種食いの禁止 ====
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アペ・コペンと雷公とのいさかいの原因は、アペ・コペンが雷神に嫌いな鶏肉を食べさせようとしたからである。ミャオ族の伝承では、雷神は雄鶏の姿で下凡するとのことなので、アペ・コペンのところに遊びに来る際には、鶏の姿だったはずだ。鶏が鶏肉を食べることは、人間が人肉を食べることに通じる。アペ・コペンは災害をもたらす雷神と戦う良い神として描かれるが、この点だけは、人肉食とそれに伴う祭祀を擁護する'''残念な神様'''になってしまっている。この点だけは、アペ・コペンは[[祝融型神]]といえる。敵対する雷神の方が、この点だけ[[黄帝型神]]なのだ。
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==== 近親婚の禁止 ====
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大洪水で人類が滅びた後、残された2人の兄妹は互いに結婚することで、人類を再び増やそうとする。しかし、近親婚は雷神が禁止しているため、ダロンは雷神の怒りを恐れて悩み苦しむ。しかし、父親のアペ・コペンが雷神の力を抑えて近親婚を許す。近親婚の禁忌の点でも、雷神はこれを嫌う[[黄帝型神]]として描かれ、アペ・コペンは肯定する[[祝融型神]]として描かれる。「禁忌」に関する点だけ、いずれもアペ・コペンが[[祝融型神]]、雷神が[[黄帝型神]]として、共通した傾向を示す点が興味深い。
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=== 雷公のもたらす災害 ===
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物語の中で、雷公のもたらす災害は大きく分けて3種類ある。
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* アペを凍えさそうとする。(冷害、雪害)
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* 大洪水(水害)
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* 干ばつ(日月樹を枯らす)
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である。雷神は単に雨を降らせたり、雷を落とすだけでなく、もっと全般的な天候に関する災害をもたらすものと考えられていたことが分かる。中国の「鬼」とは、亡くなった人がなるもので、生きている人がこれと不適切な関わりを持ち続けると、その人に死をもたらす不吉な「陰」の存在である。雷神も不適切な態度をとって怒らせると、さまざまな災害を人類にもたらす鬼の一種といえる。
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== 雷神と対立する水神のカエル ==
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この世に人が増えて怒った天の雷神が「老いた者は死ぬことにする。銅鼓(雷)の音を聞いたら死者の肉を食べよ。」と命じた。若者がこれを悲しみ布洛陀女神に訴えた。女神は「太鼓を叩いて雷神と打ち比べせよ。」と教えた。大勢で叩いたので、雷神に打ち勝つことができた。雷神は息子のカエルに、どうして地上に太鼓があるのか探らせることにした。下界に降りたカエルは人々に同情して、雷神の持っている太鼓を詳しく教えた。人々が雷神と同じ太鼓を作ると大きな音がした。雷神は太鼓を打つのをやめ、'''人も人を食う習慣をやめた'''(広西壮族自治区・壮族)<ref>百田弥栄子『中国の伝承曼荼羅』三弥井民俗選書、1999年、136頁</ref>。
  
 
== 私的解説 ==
 
== 私的解説 ==
ダロンは元々、女神の名であって、「バロン・ダロン」といったのではないか、というのが管理人の考えである。中国神話の[[伏羲]]に相当する神である。
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アペ・コペンとは、アペは祖父、コペンは始という意味で「始祖」となるとのことである。アペは、楚で男子の尊称を「阿父」と呼んだことを想起させる、とのことだ<ref>村松一弥訳『苗族民話集』平凡社、1974年、3-15頁</ref>。また中国語で父を親しみを込めて呼ぶ場合に「阿爸(アバ)」と呼ぶとのことなので、この言葉も関連するのではないか、と個人的には考える。
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物語全体としては、アペ・コペンは、人身御供肯定と近親婚肯定以外の点では災害をもたらす雷神と戦う「善神」として描かれ、[[黄帝型神]]といえる。ミャオ族の伝承では鶏雷神が英雄と考えられることが多いが、アペ・コペンは良い性質も悪い性質も含めて、「雷神」としての性質をほとんど雷神に譲ってしまったように見える。ただし、雨を降らせる時期を決めたり、どこに雷が落ちるのか決める権利をアペは持っており、かつては水や雷を操る「水雷神」とも言うべき神だったことが示唆される。
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ただし、本物語では、天で雷を追い回してあちこちに追いやるなどしており、'''風神'''としての性質が強調されているように思う。その姿はインド神話の風神ヴァーユを想像させる。
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また、アペ・コペンが暴れて山や川が作られる場面は、日本神話の八束水臣津野命、[[ダイダラボッチ]]といった開拓神を思わせる。
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中国神話の[[夸父]]という巨人は干ばつを起こす悪神で、性質としては本物語の雷神に似るが、名前はアペ・コペンと関連しているのではないか、と管理人は考える。
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    <caption>対立の構図</caption>
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        <td>ミャオ族神話</td><td>アペ・コペン</td><td>雷</td><td>干ばつなど災害一般</td>
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        <td>中国神話</td><td>[[黄帝]]</td><td>[[夸父]]</td><td>干ばつ</td>
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この表からも、アペ・コペンは[[黄帝型神]]といえると考える。
  
 
== 関連項目 ==
 
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* [[バロン]]
 
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* [[ダロン]]
 
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== 参考文献 ==
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* 村松一弥訳『苗族民話集』平凡社、1974年、3-15頁
  
 
== 脚注 ==
 
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[[Category:中国神話]]
 
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[[Category:蛙]]
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[[Category:陽]]

2024年12月25日 (水) 14:37時点における最新版

ミャオ族の伏羲女媧神話に登場する男神。中国神話の伏羲女媧の父に相当する。雷神に面白半分に鶏を食べさせて雷神と対立する[1]

ミャオ族伝承[編集]

アペ・コペンは「天を支えて大地に立つ怪力無双の男」とされている。はっきりと巨人とは描かれていないが、巨人である可能性は高いだろう。雷神とは兄弟分であったとされる。日月樹(太陽と月を宿らせる大木、世界樹の一種)を上って天に到達する。世界樹は雷神に枯らされてしまう。アペ・コペンが天で暴れると、地上には山や川ができた。アペ・コペンは天で雷神と戦い、あちこち雷公を追いかけ回すので、雷は天のあちこちで鳴るという。

ミャオ族は鶏身の雷神を信奉しており、雷神を母方の叔父とも考えているとのことだ。また、雷神は下凡するときは雄鶏の姿になるとのことだ[2]

二つのタブー[編集]

物語には大きく2つの「禁忌」が含まれる。

同種食いの禁止[編集]

アペ・コペンと雷公とのいさかいの原因は、アペ・コペンが雷神に嫌いな鶏肉を食べさせようとしたからである。ミャオ族の伝承では、雷神は雄鶏の姿で下凡するとのことなので、アペ・コペンのところに遊びに来る際には、鶏の姿だったはずだ。鶏が鶏肉を食べることは、人間が人肉を食べることに通じる。アペ・コペンは災害をもたらす雷神と戦う良い神として描かれるが、この点だけは、人肉食とそれに伴う祭祀を擁護する残念な神様になってしまっている。この点だけは、アペ・コペンは祝融型神といえる。敵対する雷神の方が、この点だけ黄帝型神なのだ。

近親婚の禁止[編集]

大洪水で人類が滅びた後、残された2人の兄妹は互いに結婚することで、人類を再び増やそうとする。しかし、近親婚は雷神が禁止しているため、ダロンは雷神の怒りを恐れて悩み苦しむ。しかし、父親のアペ・コペンが雷神の力を抑えて近親婚を許す。近親婚の禁忌の点でも、雷神はこれを嫌う黄帝型神として描かれ、アペ・コペンは肯定する祝融型神として描かれる。「禁忌」に関する点だけ、いずれもアペ・コペンが祝融型神、雷神が黄帝型神として、共通した傾向を示す点が興味深い。

雷公のもたらす災害[編集]

物語の中で、雷公のもたらす災害は大きく分けて3種類ある。

  • アペを凍えさそうとする。(冷害、雪害)
  • 大洪水(水害)
  • 干ばつ(日月樹を枯らす)

である。雷神は単に雨を降らせたり、雷を落とすだけでなく、もっと全般的な天候に関する災害をもたらすものと考えられていたことが分かる。中国の「鬼」とは、亡くなった人がなるもので、生きている人がこれと不適切な関わりを持ち続けると、その人に死をもたらす不吉な「陰」の存在である。雷神も不適切な態度をとって怒らせると、さまざまな災害を人類にもたらす鬼の一種といえる。

雷神と対立する水神のカエル[編集]

この世に人が増えて怒った天の雷神が「老いた者は死ぬことにする。銅鼓(雷)の音を聞いたら死者の肉を食べよ。」と命じた。若者がこれを悲しみ布洛陀女神に訴えた。女神は「太鼓を叩いて雷神と打ち比べせよ。」と教えた。大勢で叩いたので、雷神に打ち勝つことができた。雷神は息子のカエルに、どうして地上に太鼓があるのか探らせることにした。下界に降りたカエルは人々に同情して、雷神の持っている太鼓を詳しく教えた。人々が雷神と同じ太鼓を作ると大きな音がした。雷神は太鼓を打つのをやめ、人も人を食う習慣をやめた(広西壮族自治区・壮族)[3]

私的解説[編集]

アペ・コペンとは、アペは祖父、コペンは始という意味で「始祖」となるとのことである。アペは、楚で男子の尊称を「阿父」と呼んだことを想起させる、とのことだ[4]。また中国語で父を親しみを込めて呼ぶ場合に「阿爸(アバ)」と呼ぶとのことなので、この言葉も関連するのではないか、と個人的には考える。

物語全体としては、アペ・コペンは、人身御供肯定と近親婚肯定以外の点では災害をもたらす雷神と戦う「善神」として描かれ、黄帝型神といえる。ミャオ族の伝承では鶏雷神が英雄と考えられることが多いが、アペ・コペンは良い性質も悪い性質も含めて、「雷神」としての性質をほとんど雷神に譲ってしまったように見える。ただし、雨を降らせる時期を決めたり、どこに雷が落ちるのか決める権利をアペは持っており、かつては水や雷を操る「水雷神」とも言うべき神だったことが示唆される。

ただし、本物語では、天で雷を追い回してあちこちに追いやるなどしており、風神としての性質が強調されているように思う。その姿はインド神話の風神ヴァーユを想像させる。

また、アペ・コペンが暴れて山や川が作られる場面は、日本神話の八束水臣津野命、ダイダラボッチといった開拓神を思わせる。

中国神話の夸父という巨人は干ばつを起こす悪神で、性質としては本物語の雷神に似るが、名前はアペ・コペンと関連しているのではないか、と管理人は考える。

        
対立の構図
善神悪神悪神の態様
ミャオ族神話アペ・コペン干ばつなど災害一般
中国神話黄帝夸父干ばつ
この表からも、アペ・コペンは黄帝型神といえると考える。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • 村松一弥訳『苗族民話集』平凡社、1974年、3-15頁

脚注[編集]

  1. 村松一弥訳『苗族民話集』平凡社、1974年、3-15頁
  2. 中国の伝承曼荼羅、百田弥栄子、三弥井民俗選書、1999、p96-98
  3. 百田弥栄子『中国の伝承曼荼羅』三弥井民俗選書、1999年、136頁
  4. 村松一弥訳『苗族民話集』平凡社、1974年、3-15頁