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ギリシア神話において、エーコー(ˈɛkoʊ; ギリシャ語:Ἠχώ (Ē), 「響き」<ref>[https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.04.0057%3Aentry%3Dh%29xw%2F ἠχώ], Henry Liddell, Robert Scott, ''A Greek-English Lexicon'', on Perseus</ref>)は、シタエロン山(キサイロナス)に住んでいたオレイアス<ref>山と岩屋のニュンペーである。</ref>である<ref>Aristophanes, Translated by [[Eugene O'Neill Jr.]] (1938). ''Thesmophoriazusae''. Lines 990-1000. Available at [https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.01.0042%3Acard%3D990 perseus.tufts.edu]</ref>。ゼウスは美しいニンフと交際するのが好きで、地上にいるニンフをしばしば訪れていた。やがて、ゼウスの妻ヘーラーが不審に思い、ニンフと一緒にゼウスを捕まえようとオリンポス山からやってきた。エーコーはゼウスを守ろうとした(ゼウスに命じられた)ことでヘーラーの怒りに触れ、ヘーラーは彼女に語られた最後の言葉だけを話せるようにさせた。だから、ナルキッソスと出会って恋に落ちたエコーは、自分の気持ちを伝えることができず、彼が自分に恋しているのを見守るしかなかった。 | ギリシア神話において、エーコー(ˈɛkoʊ; ギリシャ語:Ἠχώ (Ē), 「響き」<ref>[https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.04.0057%3Aentry%3Dh%29xw%2F ἠχώ], Henry Liddell, Robert Scott, ''A Greek-English Lexicon'', on Perseus</ref>)は、シタエロン山(キサイロナス)に住んでいたオレイアス<ref>山と岩屋のニュンペーである。</ref>である<ref>Aristophanes, Translated by [[Eugene O'Neill Jr.]] (1938). ''Thesmophoriazusae''. Lines 990-1000. Available at [https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus%3Atext%3A1999.01.0042%3Acard%3D990 perseus.tufts.edu]</ref>。ゼウスは美しいニンフと交際するのが好きで、地上にいるニンフをしばしば訪れていた。やがて、ゼウスの妻ヘーラーが不審に思い、ニンフと一緒にゼウスを捕まえようとオリンポス山からやってきた。エーコーはゼウスを守ろうとした(ゼウスに命じられた)ことでヘーラーの怒りに触れ、ヘーラーは彼女に語られた最後の言葉だけを話せるようにさせた。だから、ナルキッソスと出会って恋に落ちたエコーは、自分の気持ちを伝えることができず、彼が自分に恋しているのを見守るしかなかった。 | ||
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ノヌスの『ディオニューソス』には、エーコーに関する言及が多数ある。ノヌスの記述によると、パーンは頻繁にエーコーを追いかけたが、彼女の愛情を得ることはなかったという<ref>Nonnus, Translated by W. H. D. Rouse (1989). ''Dionysiaca: Books 1-15''. Loeb. Book XV, para. 306. ISBN:0674993799</ref>。第6巻では、大洪水の文脈で「エーコー」にも言及している。ノヌスの記述によると、水は非常に高くなり、丘の上でさえエーコーは泳ぐことを余儀なくされた。パーンの誘惑から逃れた彼女は、今度はポセイドーンの欲望を恐れていた<ref>Nonnus, ''Dionysiaca'', Book VI, para. 257.</ref>。 | ノヌスの『ディオニューソス』には、エーコーに関する言及が多数ある。ノヌスの記述によると、パーンは頻繁にエーコーを追いかけたが、彼女の愛情を得ることはなかったという<ref>Nonnus, Translated by W. H. D. Rouse (1989). ''Dionysiaca: Books 1-15''. Loeb. Book XV, para. 306. ISBN:0674993799</ref>。第6巻では、大洪水の文脈で「エーコー」にも言及している。ノヌスの記述によると、水は非常に高くなり、丘の上でさえエーコーは泳ぐことを余儀なくされた。パーンの誘惑から逃れた彼女は、今度はポセイドーンの欲望を恐れていた<ref>Nonnus, ''Dionysiaca'', Book VI, para. 257.</ref>。 | ||
− | ノヌスはパーンがエーコーを獲得することはないと断言しているが、アプレイウスの『黄金の驢馬』ではパーンがエーコーを抱きかかえ、あらゆる種類の歌を反復するようニンフに教えていると描かれている<ref>Apuleius, Translated by P. G. Walsh (2008). ''The Golden Ass''. Oxford University Press. Page 94, Book 5, para. 25. ISBN:0199540551</ref> | + | ノヌスはパーンがエーコーを獲得することはないと断言しているが、アプレイウスの『黄金の驢馬』ではパーンがエーコーを抱きかかえ、あらゆる種類の歌を反復するようニンフに教えていると描かれている<ref>Apuleius, Translated by P. G. Walsh (2008). ''The Golden Ass''. Oxford University Press. Page 94, Book 5, para. 25. ISBN:0199540551</ref>。スダ・エーコーも同様に、パーンの子イニクスを産むと記されている<ref name="Sudias"/>。他の断片には、次女イアンベーのことが書かれている<ref name="OCD"/>。 |
== 中世の描写 == | == 中世の描写 == | ||
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屈辱を受けたダーネがアモールに呼びかけると、アモールはナルキッソスを呪った。詩的な正義の典型例で、ナルキッソスは自分が他人に与えたのと同じ痛み、すなわち報われない愛の痛みに苦しむことを余儀なくされるのである<ref name="Dwyer"/>。その正義の手段が水槽であり、そこに映る自分の姿に恋をしたナルキッソスが、最初は自分を女性と間違えてしまうのである<ref name="Harrison"/>。欲望にかられたダーネは、マントを羽織っただけの裸のナルキッソスを探し、死の間際の彼を見つけた。打ちひしがれて、ダーネはアモールに呼びかけたことを悔やんだ<ref name="Dwyer"/>。ダーネは最後に愛を示し、最愛の人に寄り添い、ナルキッソスは彼女の腕の中で息を引き取った。詩人は、男女を問わず、求婚者を軽んじてはいけない、自分も同じような運命をたどらないようにと警告している<ref name="Harrison 2">Harrison, ''Echo and her Medieval Sister'', 327</ref>。 | 屈辱を受けたダーネがアモールに呼びかけると、アモールはナルキッソスを呪った。詩的な正義の典型例で、ナルキッソスは自分が他人に与えたのと同じ痛み、すなわち報われない愛の痛みに苦しむことを余儀なくされるのである<ref name="Dwyer"/>。その正義の手段が水槽であり、そこに映る自分の姿に恋をしたナルキッソスが、最初は自分を女性と間違えてしまうのである<ref name="Harrison"/>。欲望にかられたダーネは、マントを羽織っただけの裸のナルキッソスを探し、死の間際の彼を見つけた。打ちひしがれて、ダーネはアモールに呼びかけたことを悔やんだ<ref name="Dwyer"/>。ダーネは最後に愛を示し、最愛の人に寄り添い、ナルキッソスは彼女の腕の中で息を引き取った。詩人は、男女を問わず、求婚者を軽んじてはいけない、自分も同じような運命をたどらないようにと警告している<ref name="Harrison 2">Harrison, ''Echo and her Medieval Sister'', 327</ref>。 | ||
− | + | オイディウスの物語は今でも知られているが、細部の多くはかなり変化している。異教の神々への言及は、愛の擬人化に過ぎないアモールを除いて、ほとんどすべてなくなっている。ナルキッソスは平民の身分に降格され、エーコーは王女の身分に昇格している。 | |
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− | + | While Ovid's story is still recognisable, many of the details have changed considerably. Almost all references to pagan deities are gone, save Amor who is little more than a personification of love. Narcissus is demoted to the status of a commoner while Echo is elevated to the status of princess. Allusions to Narcissus’ homosexuality are expunged. While Ovid talks of Narcissus' disdain for both male and female suitors, the ''Lay'' only mentions his hatred of women. Similarly, in the ''Lay'', Narcissus mistakes his reflection for that of a woman, whereas no mention is made of this in Ovid's account. Finally, the tale is overtly moralized with messages about [[courtly love]]. Such exhortations were entirely absent from the ''Metamorphoses'' rendition.<ref name="Harrison 2"/> | |
− | + | ===''The Romance of the Rose''=== | |
+ | ''[[Roman de la Rose|The Romance of the Rose]]'' is a medieval French poem, the first section of which was written by [[Guillaume de Lorris]] in around 1230. The poem was completed by [[Jean de Meun]] in around 1275. Part of a much larger narrative, the tale of Echo and Narcissus is relayed when the central figure stumbles across the pool wherein Narcissus first glimpsed his own reflection.<ref name="Guillaume 23">[[Guillaume de Lorris]] and [[Jean de Meun]] (2008). ''The Romance of the Rose''. Oxford University Press. Page 23. {{ISBN|0199540675}}</ref> | ||
− | + | In this rendition, Echo is not a nymph, or a princess, but a noble lady. She fell madly in love with Narcissus, so much so that she declared that she would die should he fail to love her in turn. Narcissus refuses, not because he despises all women, but merely because he is haughty and excessively proud of his own beauty.<ref name="Guillaume 23"/> | |
− | + | Guillaume relays that on hearing Narcissus’ rejection, Echo's grief and anger were so great that she died at once. However, in a similar vein to the ''Lay of Narcissus'', just before she dies, Echo calls out to [[Deus]]. She asks that Narcissus might one day be tormented by unrequited love as she had been, and, in so doing, understand how the spurned suffer.<ref name="Guillaume 23"/> | |
− | + | As in the classical myth, Narcissus comes across a pool following a hunt. Though Echo prayed to Deus, and the tale notes that he answered her prayer, it is Amor who waits for Narcissus by the water. Amor causes Narcissus to fall for his own reflection, leading quickly to his death. The tale makes clear that this is not merely justice for Echo, but also punishment for Narcissus’ slight against love itself.<ref name="Guillaume 23"/> | |
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+ | The tale concludes with an exhortation to all men warning them that, should they scorn their lovers, God will repay the offence.<ref>Guillaume, ''The Romance of the Rose'', 24</ref> | ||
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+ | Guillaume's rendition builds on the themes of courtly love emphasised in the ''Lay'' and moves further away from Ovid's initial account. The curse of Athena is absent entirely, and the tale is overtly moralised. Unlike in the ''Lay'', however, this moral message is aimed solely at women; this despite the fact that the offending behaviour is perpetrated by Narcissus not Echo.<ref>Harrison, ''The Romance of the Rose'', 328-329</ref> | ||
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+ | == 概説 == | ||
+ | === パーンとエーコー === | ||
+ | アルカディア地方の神とされるパーンの逸話のなかで、[[パーン (ギリシア神話)|パーン]]が恋をした多数のニンフの一人のなかにエーコーがいる。エーコーは歌や踊りが上手なニンフだったが、男性との恋を好まなかったのでパーンの求愛を断った。尊大なパーンは振られた腹いせに、かねて音楽の演奏で彼女の歌に羨望と妬ましさを覚えていたこともあり、配下の羊飼い、山羊飼いたちを狂わせた。彼らはエーコーに襲いかかり、哀れな彼女を八つ裂きにした(彼女のうたう「歌」の節をばらばらにした。「節(メレー)」は歌の節と、身体の節々の両義をギリシア語では持つ)。すると[[ガイア]](大地)がエーコーの体を隠したが、ばらばらになった「歌の節」は残り、パーンが笛を吹くと、どこからか歌の節が[[木霊]]となって聞こえてきて、パーンをたびたび怯えさせたともされる。 | ||
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+ | === 娘イアンベー === | ||
+ | エーコーはこのようないきさつで、木霊となって今でも野山において聞こえるのだという。また、別の伝承では、エーコーはパーンとのあいだに一人の娘[[イアンベー]](イアムベー)を持ったともされる。[[デーメーテール]]女神が、[[ハーデース]]に誘拐された娘の[[ペルセポネー]]を捜し求めて野山を彷徨いエレウシースに至ったとき、領主[[ケレオス]]の館で冗談を言って、女神を笑わせたのが、このイアンベーだともされる。(「エレウシースの秘儀」では、この故に、女たちが笑い声をあげるとされる)。 | ||
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+ | === ナルキッソス === | ||
+ | オウィディウスの『変身物語』によれば、[[ゼウス]]の浮気相手となった山のニンフたちを助けるために、エーコーはゼウスの妻[[ヘーラー]]を相手に長話をしつづけたことがあった。このためにエーコーはヘーラーの怒りを買い、自分からは話かけることができず、誰かが話した言葉を繰り返すことしかできないようにされた。エーコーは[[ナルキッソス]]に恋したが、話しかけることができないために相手にしてもらえず、屈辱と恋の悲しみから次第に痩せ衰え、ついには肉体をなくして声だけの存在になった。復讐の女神[[ネメシス]]によって、ナルキッソスは水面に映る自分の姿に恋し、終には命を落とす。ナルキッソスの嘆きの声は、そのままエーコーの嘆きとなった。 | ||
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+ | === イーオー === | ||
+ | グレイヴズの記すところでは(『ギリシア神話』56章a )、エーコーとパーンのあいだには、娘[[イユンクス]]があったとされる。イユンクスはゼウスに魔法をかけ、河神[[イーナコス]]の娘[[イーオー]]への恋心を抱かせたため、[[ヘーラー]]の怒りに触れ鳥の[[アリスイ]]に姿を変えられたという。<!-- 未確認: アリスイの名 (jynx) はジンクス (jinx) の語源となっている。--><!-- 「イユンクス」という名は、ギリシア語では珍しいのではないかと思う。--> | ||
== 参考文献 == | == 参考文献 == | ||
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** ロバート・グレイヴズ 『ギリシア神話』 紀伊國屋書店 | ** ロバート・グレイヴズ 『ギリシア神話』 紀伊國屋書店 | ||
** 呉茂一 『ギリシア神話』 新潮社 | ** 呉茂一 『ギリシア神話』 新潮社 | ||
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== 関連項目 == | == 関連項目 == | ||
− | * [[パーン]] | + | * [[パーン (ギリシア神話)|パーン]] |
* [[ナルキッソス]] | * [[ナルキッソス]] | ||
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* [[ネメシス]] | * [[ネメシス]] | ||
* [[ヘーラー]] | * [[ヘーラー]] | ||
+ | * [[イアンベー]] | ||
* [[木霊]] | * [[木霊]] | ||
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