その頃、アペ父さんはついに悪い雷神を追い詰めて倒してしまった。そして、父さんが新たに雷神の仕事をすることになった。殺された悪い雷神の魂は地上に落ちて「'''蛾王'''」になった。蛾王は再び人の姿に生まれ変わりたいと考えていた。そのため妹のメイバンリュウを殺して楓香樹に閉じ込め、自分の依り代になる息子を産ませることにした。最初に息子のチャンヤンが生まれた。生前の蛾王によく似た水牛の姿だったので、蛾王はこれに乗り移ることにした。他にも生け贄になるための水牛、龍、蛇、虎、象といった子供が生まれた。実は蛾王は知らなかったけれども、最後に小さな双子の女の子が生まれた。この子たちはとても賢い子だった。母親に暴力をふるう父親が嫌いだったし、そのままいれば自分も父親に生け贄にされてしまうと分かっていた。そこで父親に知られない内に逃げ出した。母親も連れて逃げたかったけれども、子供達の力では無理だった。一人はとても遠い西方に逃げ出して、アテーナーという名前の女神になり、土地の人たちにとても敬われた。もう一人の娘は、東へ逃げて海を越え乙子狭姫という名前になって、こちらも土地の人たちと仲良く暮らした。
チャンヤンとしてよみがえった蛾王は、メイバンリュウを樹から出して生き返らせ、ニャンニという名を与えて自分の妻にした。そして、まず兄弟の水牛を生け贄に捧げてこれを食べた。これを見て、天のアペ父さんは怒って言った。
「水牛男よ、何故兄弟の水牛男を殺して食べた。水牛は水牛を食べてはいけない。鶏は鶏を食べてはいけない。人間は人間を食べてはいけない、と教えただろう!」
蛾王も怒って叫んだ。
「俺は水牛の姿をしているから、水牛が食べたくて仕方がないのだ。食べたいものを食べて何が悪い!」
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