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パーンはファウヌスやサテュロスと同じように、ヤギの後ろ足、脚、角を持っている。パンの故郷は素朴なアルカディアで、野原、木立、森林の神として認識され、しばしばセックスと結び付けられる。このため、パンは豊穣と春の季節に結び付けられる<ref>https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1111/andr.12599, doi:10.1111/andr.12599, Gods associated with male fertility and virility, 2019, Neto F. T. L., Bach P. V., Lyra R. J. L. |, Borges Junior J. C., MaiaG. T. d. S., Araujo L. C. N., Lima S. V. C., Andrology, volume7, issue3, pages267–272, pmid:30786174, s2cid=:73507440</ref>。ローマの宗教と神話では、パーンに対応する神はファウヌスで、ボナ・デアの父親であり、ファウナと同定されることもある。また、森林との関係が似ていることから、シルヴァヌスとも密接な関係がある。18世紀から19世紀にかけて、パーンは西ヨーロッパのロマン主義運動や、20世紀のネオペイガン運動において重要な人物となった<ref>''The Triumph of the Moon: A History of Modern Pagan Witchcraft'', Hutton, Ronald, chapter 3</ref>。
== 起源 概説 ==パーンは羊飼いと羊の群れを監視する神で、[[サテュロス]]と同じく四足獣のような臀部と脚部、[[ヤギ|山羊]]のような角をもつ(→[[獣人]])。何者がパーンの親かは諸説がある。父親は[[ゼウス]]とも[[ヘルメース]]ともいわれ、母親はニュムペーであるといわれている。 実際には古形「パオーン、Παων、Paon」(「牧夫」の意、現代英語のpastureと同じ接頭辞)から名付けられたものだが、ギリシア語の「パン」(「全ての」の意)としばしば誤って同一視された結果、パーン神は性格と名前が誘惑的なものと思われるようになった。 === 原初のパネース ===さまざまな点でオルペウス教の創世神話に登場する原初の両性存在の神、プロートゴノス(Πρωτογονος、最初に生まれた者)あるいはパネース(Φανης、顕現する者)と同じものとも考えられた。この神は原初に卵より生まれた両性の神で、原初神'''[[エロース]]'''の別名で、みずからの娘[[ニュクス]](夜)とのあいだに初原の神々、すなわち大地([[ガイア]])と天([[ウーラノス]])を生み出した存在である([[Protogonus]]/Phanes]])。また「全て」という意味からアレクサンドリアの神話学者、そしてストア派の哲学者たちによって「宇宙全ての神」であると解釈されるようにもなった。 === パーンの語源と起源 ===パーンが[[テューポーン]]に襲われた際に上半身が山羊、下半身が魚の姿になって逃げたエピソードは有名であるが、この姿は低きは海底から高きは山の頂上まで(山羊は高山動物であるため)世界のあらゆるところに到達できるとされ、「全て」を意味する接頭語 Pan(汎)の語源となったともいわれている。 恐らく、言語上の誤解はホメーロス風諸神賛歌のなかの『パーン賛歌』(第19編)から始まったのだろう。『賛歌』によれば、パーンは[[ドリュオプス]]の娘、あるいはニュムペーとヘルメースの間に生まれたが、山羊の脚、頭に二本の角を生やすという奇妙な姿をしていたため、母親は幼いパーンを置き去りにして逃げた。ヘルメースはパーンを'''野兎'''の皮でくるんで神々のもとへ運ぶと神々はみな喜んだ。しかし、なかでも特に喜んだのは[[ディオニューソス]]だった。そして「'''全ての'''神々を喜ばす」として、そこから名前を得たのだという。 パーンには、少なくとも原インド・ヨーロッパ語族時代においてはもう一つの名前があり、ローマ神話でのファウヌス(下記)であると考えられる。あるいは印欧比較神話学的な観点からはインドの牧羊神[[プーシャン]](Pūṣán)と語源が共通しているという説もある。どちらにしても、パーンの血統をめぐる説がいくつもあることから、太古の神話的時代に遡る神であるに違いない。パーンが[[アルテミス]]に猟犬を与え、[[アポローン]]に予言の秘密を教えたというのが本当なら、他の自然の精霊と同じく、パーンはオリュンポス十二神よりも古いものにみえる。パーンはもともとアルカディアの神であって、パーンの主な崇拝者もアルカディア人だった。アルカディアはギリシア人の居住地であったが、この地のギリシア人はポリスを形成せず、より古い時代の村落共同体的な牧民の生活を送っていたので、オリュンポスの神域がパーンのパトロンになった時<!-- どういう意味か? -->、ポリス生活を送る先進地帯のギリシア人は彼らのことを蔑視していた。アルカディアの猟師たちは狩りに失敗した時、パーンの像を鞭打ったものである(テオクリトス vii. 107)。 パーンは人気のない所で、突然、混乱と恐怖をもたらすことがあった(「パニック(Panic)」)(''panikon deima'')。 復興ペイガニズム(Neopaganism)においてパーンは「角を持つ神」の典型として、神の元型の一つだった(→[[ケルヌンノス]])。 
多くの現代学者は、パンはプロト・インド・ヨーロッパ語の神''*Péh₂usōn''に由来すると考えており、彼は重要な牧神であったと考えている<ref>Mallory J. P., Adams D. Q., The Oxford Introduction to Proto-Indo-European and the Proto-Indo-European World, 2006, Oxford University Press, Oxford, England, isbn:978-0-19-929668-2, page:434</ref>(*Péh₂usōn は現代英語の "pasture" と語源を同じくする)<ref>[http://www.etymonline.com/index.php?term=*pa-&allowed_in_frame=0 "''*pa-''"]. ''Online Etymology Dictionary''.</ref>。リグ・ヴェーダの神プーシャンはパーンの同類と考えられている。パーンとプーシャンの関係は、1924年、ドイツの学者ヘルマン・コリッツによって初めて明らかにされた<ref>H. Collitz, "Wodan, Hermes und Pushan," ''Festskrift tillägnad Hugo Pipping pȧ hans sextioȧrsdag den 5 November 1924'' 1924, pp 574–587.</ref><ref>R. S. P. Beekes, ''Etymological Dictionary of Greek'', Brill, 2009, p. 1149.</ref>。パーンという名前は、''Πάων''から短縮されたもので、*peh₂-(番人、見張り)を語源とする<ref>https://books.google.com/books?id=ZXrJA_5LKlYC, Indo-European Poetry and Myth, West, M. L., 2007-05-24, OUP Oxford, isbn:978-0-19-928075-9, pages282</ref>。エドウィン・L・ブラウンによれば、パーンという名前はおそらくギリシャ語のὀπάων「仲間」と同義語である<ref>Edwin L. Brown, "The Divine Name 'Pan'", ''Transactions of the American Philological Association'' '''107''' (1977:57–61), notes (p. 59) that the first inscription mentioning Pan is a 6th-century dedication to ΠΑΟΝΙ, a "still uncontracted" form.</ref>。
パーンは、ピンダルの『ピトの頌歌』iii.78で、母神(おそらくレアかキュベレー)と関連付けられている。ピンダルは、ボイオティアの詩人の家の近くでキュベレーとパーンを崇拝する乙女たちに言及している<ref>Gutenberg, no.10717, The Extant Odes of Pindar. See note 5 to Pythian Ode III, "For Heiron of Syracuse, Winner in the Horse-race."</ref>
 
=== パーンとニュムペーたち ===
パーンのトレードマークである笛に関わる有名な伝説がある。シューリンクス(Συριγξ、Syrinx)は[[アルテミス]]の侍女で<ref name="K">木村点 『早わかりギリシア神話』 日本実業出版社</ref>、アルカディアの野に住む美しいニュムペーだった。サテュロス他の森に住むものに愛されていたが、彼女は彼らを皆軽蔑していた。ある日、狩りから彼女が帰ってくるとパーンに会った。アルテミスを崇敬し処女のままでいたいと思っていた<ref name="K" />彼女はパーンのお世辞を聞かずに逃げ出したが、パーンはラドン川の土手まで追いかけて行って彼女を捕えた。水中のニュムペーに助けを求める余裕しかなく、パーンが手を触れた時、彼女は川辺の'''葦'''になった。風が葦を通り抜け、悲しげな旋律を鳴らした。パーンはニュムペーを讃え葦をいくたりか切り取ると楽器を作り「パーンの笛」(パーンパイプ、パーンフルート、つまり古代ギリシア語でシューリンクス、Syrinx)と呼んだ。
 
[[エーコー]](Ηχω、Ekho)は歌と踊りの上手なニュムペーであり、全ての男の愛情を軽蔑していた。好色な神であるパーンはこれに腹をたて、信者に彼女を殺させた。エーコーはバラバラにされ、世界中に散らばった。大地の女神[[ガイア]]がエーコーの肉片を受け取り、今もエーコーの声は他の者が話した最後の数語を繰り返している。エーコーとはギリシア語で、木霊を意味する。別の伝承では、はじめエーコーとパーンの間には[[イアムベー]](Ιαμβη、Iambe)という娘がいた。
 
パーンはピテュス(Πιτυς、Pitys)というニュムペーにも惚れた。ピテュスは彼から逃げようと松の木になった。
 
山羊は性的な多産のシンボルであったが、パーンも性豪として有名であり、しばしばファルスを屹立させた姿で描かれる。ギリシア人はパーンがその魅力により、処女やダフニスのような羊飼いを誘惑するものと信じていた。シューリンクスとピテュスでしくじりはしたが、その後、ディオニューソスの女性崇拝者である[[マイナス (ギリシア神話)|マイナデス]]をたらし込むことには成功し、乱痴気騒ぎの中で一人残らずものにした。これを達成するため、パーンは時に分身してパーン一族(Panes)となった([[サテュロス]]を参照)。
 
=== パーンとアポローン ===
ある時、パーンは竪琴の神アポローンと音楽の技を競うことになった。[[トモーロス]](トモーロス山の神。[[オムパレー]]の夫)が審査員となった。パーンは笛を吹き、田舎じみた旋律はパーン自身とたまたま居合わせた追従者[[ミダース]]を大変満足させた。次いでアポローンが弦を奏でると、トモーロスは一聴、アポローンに軍配を上げたのである。ミーダス以外の誰もが同意した。しかしながらミダースは異議を申し立て不公正じゃないかと糾した。これに怒ったアポローンはこのような下劣な耳にわずらわされないよう、彼の耳を[[ロバ]]のそれに変えてしまった(→[[マルシュアース]])。
 
キリスト教文学や絵画に描かれる[[夢魔|インキュバス]](男性型夢魔)の悪魔風イメージ、[[サタン]]の角と割れた蹄のイメージは、大変に性的であるパーンのイメージから取ったものであると考えられている。
 
=== 偉大なるパーンは死せり ===
ギリシアの歴史家プルタルコスが『神託の堕落("The Obsolescence of Oracles" (『モラリア』5:17))』に書いたことを信じるならば、パーンはギリシアの神々の中で唯一死んだ。ティベリウスの御代にパーンの死というニュースがタムス(Thamus)の元に届いた。彼はパクソイ諸島経由でイタリアに向かう船の船員だったのだが、海上で神託を聞いた。「タムス、そこにおるか? Palodesに着いたなら、忘れず『パーンの大神は死したり』と宣告するのじゃ」と。その知らせは岸辺に不満と悲嘆をもたらした。
 
ロバート・グレイヴズは、『ギリシア神話』(The Greek Myths)の中でタムスは明らかに「Thamus Pan-megas Tethnece」(全てにして偉大なる[[タンムーズ]]は死したり)を聞き誤ったのであると示唆している。実際、プルタルコスの後一世紀たった頃、地理家のパウサニアースがギリシアを旅した時、パーンを祀る祠や洞、聖なる山を尚もしばしば見た。
 
死が宣言されたにもかかわらず、パーンは今日も復興ペイガニズムやウイッカの間で男性の強さと性的能力の源泉として崇拝されている。
 
== ローマ神話のファウヌス ==
ローマ神話でパーンに対応するのはファウヌス(Faunus)である。ファウヌスはニュムペーのマリーカ(Marīca)(時にファウヌスの母ともいわれる)との間にボナ・デア(Bona Dea. 本名は女神ファウナFaunaまたはファウラFaulaであるという。ファウヌスの女性側面)及びラティーヌス(Latīnus)をもうけた父親として知られている。
 
ユスティノスはファウヌスを'''ルペルクス'''(Lupercus「狼を遠ざけるもの」)即ち家畜の護衛者と同定しているが、この説は古典的典拠を欠く。
 
神話においては、ファウヌスは[[エウアンドロス]]がアルカディアから来たとき、ラティウム地方(Latium)の王で、ピークス王(Pīcus)とカネーンス(Canēns)の子だった。死後にファートゥウス(Fātuus)神として崇拝された。儀式は神聖な森の中で行われ、現在のティヴォリ(Tivoli)、エトルリア時代以来ティブール(Tibur)、Tiburtine Sibylの座として知られていた地のはずれにその森はあった。ファウヌス自身を象徴する彼の持ち物は'''狼の毛皮'''、花や草で作った冠、ゴブレットである。
 
彼の祭りは[[ルペルカーリア祭]](Lupercālia)と呼ばれ、神殿が建立された日を記念して2月15日に行われた。司祭ルペルクスたち(Luperci)は山羊の皮を着、見物人を山羊皮のベルトで打った。ファウヌスを讃えるもう一つの祭りがあり、ファウナリア(Faunalia)という。12月5日に行われた。
 
Erotic art in Pompeii and Herculaneumも参照のこと。
== 信仰 ==
== 参考文献 ==
* Wikipedia:[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%B3_(%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%82%A2%E7%A5%9E%E8%A9%B1) パーン (ギリシア神話)](最終閲覧日:23-01-06)
* Wikipedia:[https://en.wikipedia.org/wiki/Pan_(god) Pan (god)](最終閲覧日:23-01-15)
** Borgeaud Philippe, 1979, Recherches sur le Dieu Pan, Geneva University
== 外部リンク ==
* http://www.androphile.org/preview/Library/Mythology/Greek/Daphnis/Pan_and_Daphnis.htm, The story of Pan and Daphnis, 20080122053903
* [http://www.theoi.com/Georgikos/Phaunos.html Original resources on Faunus/Phaunos]
* [http://www.theoi.com/Georgikos/Pan.html Original resources on Pan]
 
==See also==
{{div col begin |colwidth=15em}}
* [[Aristaeus]]
* [[Dryad]]
* [[Golden Age]]
* [[Kokopelli]]
* [[Pan in popular culture]]
* ''[[Pan (White)|Pan]]'', sculpture by Roger White
* [[Pangu]]
* [[Puck (mythology)|Puck]]
* [[Cernunnos]]
* [[Green Man]]
* [[Woodwose]]
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
== 概説 ==
パーンは羊飼いと羊の群れを監視する神で、[[サテュロス]]と同じく四足獣のような臀部と脚部、[[ヤギ|山羊]]のような角をもつ(→[[獣人]])。何者がパーンの親かは諸説がある。父親は[[ゼウス]]とも[[ヘルメース]]ともいわれ、母親はニュムペーであるといわれている。
 
実際には古形「パオーン、Παων、Paon」(「牧夫」の意、現代英語のpastureと同じ接頭辞)から名付けられたものだが、ギリシア語の「パン」(「全ての」の意)としばしば誤って同一視された結果、パーン神は性格と名前が誘惑的なものと思われるようになった。
 
=== 原初のパネース ===
さまざまな点でオルペウス教の創世神話に登場する原初の両性存在の神、プロートゴノス(Πρωτογονος、最初に生まれた者)あるいはパネース(Φανης、顕現する者)と同じものとも考えられた。この神は原初に卵より生まれた両性の神で、原初神'''[[エロース]]'''の別名で、みずからの娘[[ニュクス]](夜)とのあいだに初原の神々、すなわち大地([[ガイア]])と天([[ウーラノス]])を生み出した存在である([[Protogonus]]/Phanes]])。また「全て」という意味からアレクサンドリアの神話学者、そしてストア派の哲学者たちによって「宇宙全ての神」であると解釈されるようにもなった。
 
=== パーンの語源と起源 ===
パーンが[[テューポーン]]に襲われた際に上半身が山羊、下半身が魚の姿になって逃げたエピソードは有名であるが、この姿は低きは海底から高きは山の頂上まで(山羊は高山動物であるため)世界のあらゆるところに到達できるとされ、「全て」を意味する接頭語 Pan(汎)の語源となったともいわれている。
 
恐らく、言語上の誤解はホメーロス風諸神賛歌のなかの『パーン賛歌』(第19編)から始まったのだろう。『賛歌』によれば、パーンは[[ドリュオプス]]の娘、あるいはニュムペーとヘルメースの間に生まれたが、山羊の脚、頭に二本の角を生やすという奇妙な姿をしていたため、母親は幼いパーンを置き去りにして逃げた。ヘルメースはパーンを'''野兎'''の皮でくるんで神々のもとへ運ぶと神々はみな喜んだ。しかし、なかでも特に喜んだのは[[ディオニューソス]]だった。そして「'''全ての'''神々を喜ばす」として、そこから名前を得たのだという。
 
パーンには、少なくとも原インド・ヨーロッパ語族時代においてはもう一つの名前があり、ローマ神話でのファウヌス(下記)であると考えられる。あるいは印欧比較神話学的な観点からはインドの牧羊神[[プーシャン]](Pūṣán)と語源が共通しているという説もある。どちらにしても、パーンの血統をめぐる説がいくつもあることから、太古の神話的時代に遡る神であるに違いない。パーンが[[アルテミス]]に猟犬を与え、[[アポローン]]に予言の秘密を教えたというのが本当なら、他の自然の精霊と同じく、パーンはオリュンポス十二神よりも古いものにみえる。パーンはもともとアルカディアの神であって、パーンの主な崇拝者もアルカディア人だった。アルカディアはギリシア人の居住地であったが、この地のギリシア人はポリスを形成せず、より古い時代の村落共同体的な牧民の生活を送っていたので、オリュンポスの神域がパーンのパトロンになった時<!-- どういう意味か? -->、ポリス生活を送る先進地帯のギリシア人は彼らのことを蔑視していた。アルカディアの猟師たちは狩りに失敗した時、パーンの像を鞭打ったものである(テオクリトス vii. 107)。
 
パーンは人気のない所で、突然、混乱と恐怖をもたらすことがあった(「パニック(Panic)」)(''panikon deima'')。
 
復興ペイガニズム(Neopaganism)においてパーンは「角を持つ神」の典型として、神の元型の一つだった(→[[ケルヌンノス]])。
 
=== パーンとニュムペーたち ===
パーンのトレードマークである笛に関わる有名な伝説がある。シューリンクス(Συριγξ、Syrinx)は[[アルテミス]]の侍女で<ref name="K">木村点 『早わかりギリシア神話』 日本実業出版社</ref>、アルカディアの野に住む美しいニュムペーだった。サテュロス他の森に住むものに愛されていたが、彼女は彼らを皆軽蔑していた。ある日、狩りから彼女が帰ってくるとパーンに会った。アルテミスを崇敬し処女のままでいたいと思っていた<ref name="K" />彼女はパーンのお世辞を聞かずに逃げ出したが、パーンはラドン川の土手まで追いかけて行って彼女を捕えた。水中のニュムペーに助けを求める余裕しかなく、パーンが手を触れた時、彼女は川辺の'''葦'''になった。風が葦を通り抜け、悲しげな旋律を鳴らした。パーンはニュムペーを讃え葦をいくたりか切り取ると楽器を作り「パーンの笛」(パーンパイプ、パーンフルート、つまり古代ギリシア語でシューリンクス、Syrinx)と呼んだ。
 
[[エーコー]](Ηχω、Ekho)は歌と踊りの上手なニュムペーであり、全ての男の愛情を軽蔑していた。好色な神であるパーンはこれに腹をたて、信者に彼女を殺させた。エーコーはバラバラにされ、世界中に散らばった。大地の女神[[ガイア]]がエーコーの肉片を受け取り、今もエーコーの声は他の者が話した最後の数語を繰り返している。エーコーとはギリシア語で、木霊を意味する。別の伝承では、はじめエーコーとパーンの間には[[イアムベー]](Ιαμβη、Iambe)という娘がいた。
 
パーンはピテュス(Πιτυς、Pitys)というニュムペーにも惚れた。ピテュスは彼から逃げようと松の木になった。
 
山羊は性的な多産のシンボルであったが、パーンも性豪として有名であり、しばしばファルスを屹立させた姿で描かれる。ギリシア人はパーンがその魅力により、処女やダフニスのような羊飼いを誘惑するものと信じていた。シューリンクスとピテュスでしくじりはしたが、その後、ディオニューソスの女性崇拝者である[[マイナス (ギリシア神話)|マイナデス]]をたらし込むことには成功し、乱痴気騒ぎの中で一人残らずものにした。これを達成するため、パーンは時に分身してパーン一族(Panes)となった([[サテュロス]]を参照)。
 
=== パーンとアポローン ===
ある時、パーンは竪琴の神アポローンと音楽の技を競うことになった。[[トモーロス]](トモーロス山の神。[[オムパレー]]の夫)が審査員となった。パーンは笛を吹き、田舎じみた旋律はパーン自身とたまたま居合わせた追従者[[ミダース]]を大変満足させた。次いでアポローンが弦を奏でると、トモーロスは一聴、アポローンに軍配を上げたのである。ミーダス以外の誰もが同意した。しかしながらミダースは異議を申し立て不公正じゃないかと糾した。これに怒ったアポローンはこのような下劣な耳にわずらわされないよう、彼の耳を[[ロバ]]のそれに変えてしまった(→[[マルシュアース]])。
 
キリスト教文学や絵画に描かれる[[夢魔|インキュバス]](男性型夢魔)の悪魔風イメージ、[[サタン]]の角と割れた蹄のイメージは、大変に性的であるパーンのイメージから取ったものであると考えられている。
 
=== 偉大なるパーンは死せり ===
ギリシアの歴史家プルタルコスが『神託の堕落("The Obsolescence of Oracles" (『モラリア』5:17))』に書いたことを信じるならば、パーンはギリシアの神々の中で唯一死んだ。ティベリウスの御代にパーンの死というニュースがタムス(Thamus)の元に届いた。彼はパクソイ諸島経由でイタリアに向かう船の船員だったのだが、海上で神託を聞いた。「タムス、そこにおるか? Palodesに着いたなら、忘れず『パーンの大神は死したり』と宣告するのじゃ」と。その知らせは岸辺に不満と悲嘆をもたらした。
 
ロバート・グレイヴズは、『ギリシア神話』(The Greek Myths)の中でタムスは明らかに「Thamus Pan-megas Tethnece」(全てにして偉大なる[[タンムーズ]]は死したり)を聞き誤ったのであると示唆している。実際、プルタルコスの後一世紀たった頃、地理家のパウサニアースがギリシアを旅した時、パーンを祀る祠や洞、聖なる山を尚もしばしば見た。
 
死が宣言されたにもかかわらず、パーンは今日も復興ペイガニズムやウイッカの間で男性の強さと性的能力の源泉として崇拝されている。
 
== ローマ神話のファウヌス ==
ローマ神話でパーンに対応するのはファウヌス(Faunus)である。ファウヌスはニュムペーのマリーカ(Marīca)(時にファウヌスの母ともいわれる)との間にボナ・デア(Bona Dea. 本名は女神ファウナFaunaまたはファウラFaulaであるという。ファウヌスの女性側面)及びラティーヌス(Latīnus)をもうけた父親として知られている。
 
ユスティノスはファウヌスを'''ルペルクス'''(Lupercus「狼を遠ざけるもの」)即ち家畜の護衛者と同定しているが、この説は古典的典拠を欠く。
 
神話においては、ファウヌスは[[エウアンドロス]]がアルカディアから来たとき、ラティウム地方(Latium)の王で、ピークス王(Pīcus)とカネーンス(Canēns)の子だった。死後にファートゥウス(Fātuus)神として崇拝された。儀式は神聖な森の中で行われ、現在のティヴォリ(Tivoli)、エトルリア時代以来ティブール(Tibur)、Tiburtine Sibylの座として知られていた地のはずれにその森はあった。ファウヌス自身を象徴する彼の持ち物は'''狼の毛皮'''、花や草で作った冠、ゴブレットである。
 
彼の祭りは[[ルペルカーリア祭]](Lupercālia)と呼ばれ、神殿が建立された日を記念して2月15日に行われた。司祭ルペルクスたち(Luperci)は山羊の皮を着、見物人を山羊皮のベルトで打った。ファウヌスを讃えるもう一つの祭りがあり、ファウナリア(Faunalia)という。12月5日に行われた。
 
Erotic art in Pompeii and Herculaneumも参照のこと。
 
== 参考文献 ==
* Wikipedia:[https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%91%E3%83%BC%E3%83%B3_(%E3%82%AE%E3%83%AA%E3%82%B7%E3%82%A2%E7%A5%9E%E8%A9%B1) パーン (ギリシア神話)](最終閲覧日:23-01-06)
 
== 外部リンク ==
* url=http://www.androphile.org/preview/Library/Mythology/Greek/Daphnis/Pan_and_Daphnis.htm, The story of Pan and Daphnis, 20080122053903
== 関連項目 ==

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