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ギリシャ神話では、エロース(UK: /ˈɪərɒs, ˈɛrɒs/, US: /ˈɛrɒs, ˈɛroʊs/<ref>[http://www.oxfordlearnersdictionaries.com/definition/american_english/eros ''Oxford Learner's Dictionaries:'' "Eros"]</ref>;古代ギリシャ語: Ἔρως, ローマ字表記: Érōs: Érōs, lit. 愛、欲望」)は、ギリシア神話の愛と性の神である。ローマ時代にはクピードー(「欲望」)と呼ばれた<ref name=Lar>''Larousse Desk Reference Encyclopedia'', The Book People, Haydock, 1995, p. 215.</ref>。最古の記述では原初の神であり、後の記述ではアフロディーテとアレースの子供の一人とされ、いくつかの兄弟とともに、翼を持つ愛の神々であるエロテス(Erotes)の一人であったとされる。
 
== 概説 ==
=== ローマ神話との対応・姿の変化 ===
ローマ神話では、エロースには、ラテン語で受苦の愛に近い意味を持つ'''アモール'''(Amor)または'''[[クピードー]]'''(Cupido)を対応させる。(ギリシャ語で言う「πάσχω」)。クピードーは後に幼児化して、英語読みでキューピッドと呼ばれる小天使のようなものに変化したが、元は、髭の生えた男性の姿でイメージされていた。古代ギリシアのエロースも同様で、古代には力強い有翼の男性あるいは若々しい青年であり、やがて、少年の姿でイメージされるようになった。エロースの象徴は弓矢及び松明である。
 
=== 古代の記述 ===
ヘーシオドスの『神統記』では、[[カオス]]や[[ガイア]]、[[タルタロス]]と同じく、世界の始まりから存在した原初神 (Greek primordial deities)である。'''崇高で偉大で、どの神よりも卓越した力を持つ神であった'''。またこの姿が、エロースの本来のありようである。
 
後に、軍神[[アレース]]と愛の女神[[アプロディーテー]]の子であるとされるようになった。またエロースは[[アプロディーテー]]の傍に仕える忠実な従者とされる<ref>松村一男/監修 『知っておきたい 世界と日本の神々』44頁。</ref>。
 
古代においては、若い男性の姿で描かれていたが、西欧文化では、近世以降、背中に翼のある愛らしい少年の姿で描かれることが多く、手には弓と矢を持つ(この姿の絵は、本来のエロースではなく、アモールあるいはクピードーと混同された絵である)。黄金で出来た矢に射られた者は激しい愛情にとりつかれ、鉛で出来た矢に射られた者は恋を嫌悪するようになる。
 
エロースはこの矢で人や神々を撃って遊んでいた。ある時、[[アポローン]]にそれを嘲られ、復讐としてアポローンを金の矢で、たまたまアポローンの前に居た[[ダプネー]]を鉛の矢で撃った。アポローンはダプネーへの恋慕のため、彼女を追い回すようになったが、ダプネーはこれを嫌って逃れた。しかし、いよいよアポローンに追いつめられて逃げ場がなくなったとき、彼女は父に頼んでその身を[[ゲッケイジュ|月桂樹]]に変えた(ダプネー daphne とはギリシア語で、月桂樹という意味の普通名詞である)。このエピソードが示す寓意は、強い理性に凝り固まった者は恋愛と言う物を蔑みがちだが、自らの激しい恋慕の前にはその理性も瓦解すると言う事である。
== 語源 ==
グノーシス主義の『世界の起源』では、宇宙創成期のエロースは、カオスのすべての生き物の中に散在し、光と闇、天使と人間の中間的な存在であったとされている。その後、[[プシューケー]]がエロスに自らの血を注ぎ、地上に最初のバラを芽生えさせ、その後、あらゆる花や草木を芽生えさせる<ref>cite book, James M., Robinson, James M. Robinson, 2007, 1st&nbsp;publ.&nbsp;1978, On the Origin of the World, The Nag Hammadi Scriptures, HarperCollins , isbn:9780060523787, http://gnosis.org/naghamm/origin-Barnstone.html</ref><ref group="私注">エロースと[[プシューケー]]が[[薔薇]]と関連づけられるところは「[[美女と野獣]]」に類似している。この場合は[[薔薇]]が世界樹の役割も果たしているようである。</ref>。
=== ディオニューソス関連 = 「愛と心の物語」 ====ヘレニズム時代になると、甘美な物語が語られるようになる。それが『愛と心の物語』である。地上の人間界で、王の末娘[[プシューケー]]が絶世の美女として噂になっていた。母アプロディーテーは美の女神としての誇りからこれを嫉妬し憎み、この娘が子孫を残さぬよう鉛の矢で撃つようにエロースに命じた。 だがエロースはプシューケーの寝顔の美しさに惑って撃ち損ない、ついには誤って金の矢で自身の足を傷つけてしまう。その時眼前に居たプシューケーに恋をしてしまうが、エロースは恥じて身を隠し、だが恋心は抑えられず、魔神に化けてプシューケーの両親の前に現れ、彼女を[[生贄]]として捧げるよう命じた。 晴れてプシューケーと同居したエロースだが、神であることを知られては禁忌に触れるため、'''暗闇でしか'''プシューケーに会おうとしなかった。姉たちに唆されたプシューケーが灯りをエロースに当てると、エロースは逃げ去ってしまった。 エロースの端正な顔と美しい姿を見てプシューケーも恋に陥り、人間でありながら姑アプロディーテーの出す難題を解くため[[冥界]]に行ったりなどして、ついにエロースと再会する。この話は、アプレイウスが『黄金の驢馬』のなかに記した挿入譚で、「愛と心」の関係を象徴的に神話にしたものである。プシューケーとはギリシア語で、「心・魂」の意味である。 プシューケーとの間にはウォルプタース(ラテン語で「喜び」、「悦楽」の意。古典ギリシア語ではヘードネー)と言う名の女神が生まれた。 === ディオニューソス関連(ディオニューシアカ) ===
[[ディオニューソス]]関連の神話には、エロースが2回登場する。 1つ目は、エロースが若い羊飼いのヒムヌスを美しいナイアスのニカイアに恋させるというもの。ニカイアはヒムヌスの愛情に応えることはなく、自暴自棄になった彼は彼女に自分を殺してくれるよう頼んだ。彼女は彼の願いを叶えたが、ニカイアの行動に嫌気が差したエロースは、ディオニューソスに恋の矢を放って彼女に恋させた。ニカイアがディオニューソスを拒絶したため、ディオニューソスは彼女が飲んでいた泉に葡萄酒を満たした。ニカイアが酔いつぶれ、休息したところを、ディオニューソスが無理矢理襲った。その後、ニカイアは復讐のためにディオニューソスを探し求めたが、結局見つからなかった<ref>Nonnus, ''Dionysiaca'' [https://archive.org/details/dionysiaca01nonnuoft/page/516/mode/2up?view=theater 15.202]–[https://archive.org/details/dionysiaca02nonnuoft/page/28/mode/2up?view=theater 16.383]</ref>。また、アルテミスの乙女ニンフの一人アウラは、アルテミスの官能的で豊かな姿に対して、処女の体を持っていることで自分の女主人より優れていると自慢し、アルテミスの処女性を疑わせた。怒ったアルテミスは、復讐と報復の女神ネメシスに仇討ちを依頼し、ネメシスはエロースに命じてディオニューソスをアウラに恋させた。その後、ディオニューソスはアウラを酔わせ、レイプするというニカイア神話と同じような物語が続く<ref>Nonnus, ''Dionysiaca'' [https://archive.org/stream/dionysiaca03nonnuoft#page/442/mode/2up 48.936]–[https://archive.org/stream/dionysiaca03nonnuoft#page/490/mode/2up 992]</ref>。
== See also ==
{{Portal|Ancient Greece|Myths|Religion}}
* [[Eros (concept)]]
* [[Greek words for love]]
* [[Kamadeva]]
* [[Family tree of the Greek gods]]
* [[Phanes (mythology)]]
 
 
 
== 参考書籍 ==
* wikipedia:エロース(最終閲覧日:22-12-13)
** ヘシオドス『神統記』廣川洋一訳、岩波文庫(1984年)
** アプレイウス『愛と心の物語』呉茂一・国原吉之助訳注、岩波書店(2013年、『黄金の驢馬』の作中話として挿入されている)。
** 呉茂一『ギリシア神話 上巻』、新潮社(1956年)
** 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』、岩波書店(1960年)
** 松村一男監修『知っておきたい 世界と日本の神々』、西東社(2007年)
*[[Aristophanes]], ''Birds''. ''The Complete Greek Drama.'' ''vol. 2''. Eugene O'Neill, Jr. New York. Random House. 1938. [https://www.perseus.tufts.edu/hopper/text?doc=Perseus:text:1999.01.0026 Online version at the Perseus Digital Library.]
* [https://www.theoi.com/Protogenos/Eros.html EROS (PRIMORDIAL) from The Theoi Project]
* [https://www.theoi.com/Ouranios/Eros.html EROS (OLYMPIAN) from The Theoi Project]
 
== 概説 ==
=== ローマ神話との対応・姿の変化 ===
ローマ神話では、エロースには、ラテン語で受苦の愛に近い意味を持つ'''アモール'''(Amor)または'''[[クピードー]]'''(Cupido)を対応させる。(ギリシャ語で言う「πάσχω」)。クピードーは後に幼児化して、英語読みでキューピッドと呼ばれる小天使のようなものに変化したが、元は、髭の生えた男性の姿でイメージされていた。古代ギリシアのエロースも同様で、古代には力強い有翼の男性あるいは若々しい青年であり、やがて、少年の姿でイメージされるようになった。エロースの象徴は弓矢及び松明である。
 
=== 古代の記述 ===
ヘーシオドスの『神統記』では、[[カオス]]や[[ガイア]]、[[タルタロス]]と同じく、世界の始まりから存在した原初神 (Greek primordial deities)である。'''崇高で偉大で、どの神よりも卓越した力を持つ神であった'''。またこの姿が、エロースの本来のありようである。
 
後に、軍神[[アレース]]と愛の女神[[アプロディーテー]]の子であるとされるようになった。またエロースは[[アプロディーテー]]の傍に仕える忠実な従者とされる<ref>松村一男/監修 『知っておきたい 世界と日本の神々』44頁。</ref>。
 
古代においては、若い男性の姿で描かれていたが、西欧文化では、近世以降、背中に翼のある愛らしい少年の姿で描かれることが多く、手には弓と矢を持つ(この姿の絵は、本来のエロースではなく、アモールあるいはクピードーと混同された絵である)。黄金で出来た矢に射られた者は激しい愛情にとりつかれ、鉛で出来た矢に射られた者は恋を嫌悪するようになる。
 
エロースはこの矢で人や神々を撃って遊んでいた。ある時、[[アポローン]]にそれを嘲られ、復讐としてアポローンを金の矢で、たまたまアポローンの前に居た[[ダプネー]]を鉛の矢で撃った。アポローンはダプネーへの恋慕のため、彼女を追い回すようになったが、ダプネーはこれを嫌って逃れた。しかし、いよいよアポローンに追いつめられて逃げ場がなくなったとき、彼女は父に頼んでその身を[[ゲッケイジュ|月桂樹]]に変えた(ダプネー daphne とはギリシア語で、月桂樹という意味の普通名詞である)。このエピソードが示す寓意は、強い理性に凝り固まった者は恋愛と言う物を蔑みがちだが、自らの激しい恋慕の前にはその理性も瓦解すると言う事である。
 
== 「愛と心の物語」 ==
ヘレニズム時代になると、甘美な物語が語られるようになる。それが『愛と心の物語』である。地上の人間界で、王の末娘[[プシューケー]]が絶世の美女として噂になっていた。母アプロディーテーは美の女神としての誇りからこれを嫉妬し憎み、この娘が子孫を残さぬよう鉛の矢で撃つようにエロースに命じた。
 
だがエロースはプシューケーの寝顔の美しさに惑って撃ち損ない、ついには誤って金の矢で自身の足を傷つけてしまう。その時眼前に居たプシューケーに恋をしてしまうが、エロースは恥じて身を隠し、だが恋心は抑えられず、魔神に化けてプシューケーの両親の前に現れ、彼女を[[生贄]]として捧げるよう命じた。
 
晴れてプシューケーと同居したエロースだが、神であることを知られては禁忌に触れるため、'''暗闇でしか'''プシューケーに会おうとしなかった。姉たちに唆されたプシューケーが灯りをエロースに当てると、エロースは逃げ去ってしまった。
 
エロースの端正な顔と美しい姿を見てプシューケーも恋に陥り、人間でありながら姑アプロディーテーの出す難題を解くため[[冥界]]に行ったりなどして、ついにエロースと再会する。この話は、アプレイウスが『黄金の驢馬』のなかに記した挿入譚で、「愛と心」の関係を象徴的に神話にしたものである。プシューケーとはギリシア語で、「心・魂」の意味である。
 
プシューケーとの間にはウォルプタース(ラテン語で「喜び」、「悦楽」の意。古典ギリシア語ではヘードネー)と言う名の女神が生まれた。
 
== 参考書籍 ==
* wikipedia:エロース(最終閲覧日:22-12-13)
** ヘシオドス『神統記』廣川洋一訳、岩波文庫(1984年)
** アプレイウス『愛と心の物語』呉茂一・国原吉之助訳注、岩波書店(2013年、『黄金の驢馬』の作中話として挿入されている)。
** 呉茂一『ギリシア神話 上巻』、新潮社(1956年)
** 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』、岩波書店(1960年)
** 松村一男監修『知っておきたい 世界と日本の神々』、西東社(2007年)
== 関連項目 ==
* [[アプロディーテー]]
* [[カーマ (ヒンドゥー教)]] - エロースと同じく、矢で射たものに恋情を引き起こす愛の神。
* パネース:オルペウス教の始原神。
== 私的注釈 ==

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