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怪物退治説話、化け猫の話は日本にも多く鍋島の猫騒動のように演劇や講談種となったものもあるが、民間伝承として雲州松江の小池婆の話が最もこれに近い。
大入道 神話、民話に付きものの「トロールド」のことで、悪魔のようなものではない。丘、山中に一家族でか、或いは多数の家族が一緒に住むと想像されている。豪富を蓄え、住家の内部は黄金や宝石で飾られて、華麗なのを普通とする。人間と友達となって金を貸したり、借りたりもする。あまり利口ではなく盗癖があって、金銀財貨ばかりでなく、婦人子供をも盗み去る。騒がしい音を嫌い、キリスト教会が出来て、鐘を打ち鳴らすようになってから、この怪物は大部分駆逐されたと思われている。
聖霊降臨祭 キリスト教会で聖霊の降臨を記念する祭日。復活祭後第七日曜日となっている。(使徒行伝第二章)往昔、ユダヤ日との収穫の祝祭に起源するともいう。聖霊降臨祭節と称するのは一週間。「白日曜日」と呼ぶことがあるのは、この日には受洗者が多く白衣を着ることによる。
主の祈祷(いのり) 新約聖書マタイ伝第六章九節~十三節にある。「天にいます我らの父よ、願わくば、御名を崇められん事を。御国の来たらんことを。御意の天のごとく、地にも行われん事を。我らの日用の糧を今日もあたえ給え。我らに負債(おいめ)ある者を我らの召したる如く、我らの負債をも召し給え。我らを嘗試(こころみ)に遇せず、悪より救い出したまえ。」キリストが弟子たちに示した祷の雛形で、信者が一般に用いる。
基本的に「春分の日の後の最初の満月の次の日曜日」で、年によって日付が変わる移動祝日である。日付は変わるものの、必ず日曜日に祝われる。東方教会と西方教会とでは日付の算定方法が異なるため、日付が異なる年の方が多い。(Wikipedia「復活祭」より)
イエスの復活・昇天後、集まって祈っていた120人の信徒たちの上に、神からの聖霊が降ったという出来事のこと、およびその出来事を記念するキリスト教の祝祭日。もともとは春に得られる最初の収穫に感謝する農業祭だった。宗教上、収穫感謝の意味は失われたが、農業祭としての色彩は、ドイツ、ギリシアなどの民俗に残っている。
キリスト教の聖霊降臨の日は、復活祭から(その日を第一日と)数えて50日後に祝われる移動祝日(年によって日付が変わる祝日)である。日付は毎年異なるが、西方では五月初旬から六月上旬の日曜日、東方では五月初旬から六月下旬の日曜日に行われる。(Wikipedia「ペンテコステ」より)
第三話 化け猫
むかしむかし、ある所に水車場があった。その水車場はこのあたりではなく、どこか上(かみ)の地方にあった。けれども、小山の北か、南か、何処にあったとしても、それはとても妙な水車場だった。なにかがそこに出没するときは、何週間も、一粒の麦も挽けなかった。けれども、一番困ったことは、そこに出没するのがトロールドか、他のなにかだったとしても、水車場を焼いてしまうことだった。聖霊降臨祭の晩に二年続けて火事があって、すっかり焼けてしまったのだ。
三年目の聖霊降臨祭が近づいてきたとき、水車場のすぐそばの主人の家に、主人の日曜着を縫いに仕立屋が来ていた。主人は聖霊降臨祭の晩に、――
「さあ、うちの水車場は今年の降臨祭の晩にも火事になるだろうか。」と、言った。
「ならないでしょう。」と、仕立屋は言った。「なるはずがないですよ、私に鍵を渡して下さい。私が水車場の番をしましょう。」
主人は勇敢な男だと思った。それで、夕方になると、仕立屋に鍵を渡して水車場に案内した。此処は新しい建物だったから、中は空だった。そこで仕立屋は床の真ん中に座って、チョークを取り出して、自分の周りに円を描いて、その円の周囲全体に『主の祈祷(いのり)』を書いた。それがすむと、もう怖いものはなかった――悪魔がやって来ようと、怖くはなかった。
ところが、真夜中になると、バーンと音をたてて、戸が一杯に開いた。そして数え切れないほどの黒猫の群が現れ、蟻のように密集していた。間もなく猫は鈩(いろり)の上に大きい鍋をかけて、その下に火を焚きつけたので、鍋はぶつぶつと煮え出した。鍋の中のものは、まるで松脂(まつやに)とタールのようだった。
「は! は! お前たちの計略(けいりゃく)はそれだな!」と仕立屋は考えた。
こう思っていると、一匹の猫が鍋の下に前足を入れて、ひっくり返そうとした。
「前足を引っ込めろ、小猫さん。頬髭(ほほひげ)を焼いてしまうぜ。」
と、仕立屋は言った。
「わたしに、前足を引っ込めろ、小猫さん、といった仕立屋に気を付けろ。」と、その猫がほかの猫たちにいった。またたく間に猫たちは鈩のふちから、みんな逃げて行って、輪になって踊ったり、躍(と)んだりしていた。それから、急に前の猫はこっそりと鈩に行って、鍋をひっくりかえそうとした。
「前足を引っ込めろ、小猫さん。お前の頬髭を焼いてしまうぜ。」と、仕立屋はまた叫んだ。で、また猫共を鈩(いろり)の椽(ふち)から追いちらした。
「わたしに、前足を引っ込めろ、小猫さん、といった仕立屋に気をつけろ。」と、その猫が他の猫たちにいった。そして、みんな、また輪になって踊ったり、躍(と)んだりし始めた。それから、また急にみな鍋のところに集まって鍋をひっくりかえそうとした。
「前足を引っ込めろ、小猫さん。頬髭(ほほひげ)を焼いてしまうぜ。」と、仕立屋は三度目に叫んだ。こんどは猫をひどく、びっくりさせたので、猫は床の上でひっくりかえった。それから、また前と同じように踊ったり躍(と)んだりし始めた。
それから猫たちは輪になって、近くに集まり、ますます速い調子で踊った。あまり速いので、とうとう仕立屋はめまいがし出した。猫は、とても大きい、みぐるしい目で仕立屋をみつめ、仕立屋を生きたまま丸呑みにせんばかりだった。
ところで、猫の群(むれ)が精いっぱい速く踊(おど)っていたとき、たびたび鍋をひっくり返そうとした猫が、前足を円の内側に入れて、仕立屋を爪で引っ掻こうとしていた。けれども仕立屋はそれを見ると、すぐに鞘(さや)からナイフを引き抜いて、身がまえた。その時、猫がまた前足を差し入れたので、とっさにその前足を切り落とした。そうすると、猫達はみんなぎゃあぎゃあ鳴きながら、必死で戸に殺到して外へ逃げ出した。仕立屋は書いた円の中で横になって、朝お日様が床の上にきらきらとさしこんでくるまで眠った。そして起きると、水車場を閉めて持主の家へ行った。
仕立屋が家にいくと、水車場の持主と女房は、聖霊降臨祭の朝なので、まだ起きていなかった。
「お早うございます。」と仕立屋は水車場の主人の部屋に入っていって挨拶(あいさつ)の手を差し延べた。
「お早う。」と主人はいって、仕立屋が無事なのを見て、ほんとうに喜び、驚いていた。
「お早うございます、おかみさん。」と、仕立屋は主人の女房に挨拶して握手を求めた。女房は「お早うございます。」とはいったものの、いかにも元気がなく、いらいらしていた。そして手は蒲団の下に隠していたが、しかたなく、左手を差し出した。
そこで、仕立屋は事情をはっきりと悟った。けれども、主人になんといったか、またおかみさんをどうしたかは、わたしは何も聞いていない。
原文:003_cat.pdf